1. 添付画像から読み取れるセッション設計
抽出タイムテーブル
- CIEDs患者の撮影:改定3学会合同ステートメントの背景と運用
埼玉医大国際医療センター・循 加藤 律史 - 運用の現状:杏林大学
杏林大学・CE 萩原 陽 - 運用の現状:東京女子医科大学
東京女子医大・放部 椎名 勲 - 運用の現状:三重大学
三重大学・循 香川 芳彦 - Discussion
施設間の運用差を、どこまで標準化できるかが焦点。
2. 2024年改定3学会合同ステートメントの実務的インパクト
日本の改定ステートメントの本質は、「条件付きMRI対応CIEDの厳格運用」に加えて、MRIカード非保有・mixed-brand・legacy lead・早期撮像・複数回撮像・心内膜遺残リードなどを、リスク階層化して議論できる枠組みに広げた点です。
“できる / できない”から、“どのリスククラスで、どの体制なら妥当か”へ
旧来の現場判断は、しばしば「MRIカードがあるか」「メーカーが可と言うか」に寄りがちでした。改定後は、カード保有者をClass Iとして扱うだけでなく、カード非保有者でも一定の条件を満たす患者をClass IIa/IIbとして整理し、院内プロトコール・文書同意・専門職配置・登録を前提に検討できます。
MRIカード保有、施設要件・実施条件・カード記載条件に基づく検査。標準運用。
安全性がほぼ確立。mixed-brand、legacy lead+MRI対応本体、複数回、植込み後6週未満など。
安全性が十分確立とは言えない。心内膜遺残リードなどは、施設要件と慎重な条件設定で検討。
MRI非対応本体、心外膜リード、リード断線、コネクター等は、原則として専門カンファで代替・延期・実施可否を再評価。
現場での一言要約
「MRIカードを探す」から始めるが、そこで止まらない。
本体・リード・メーカー組合せ・植込み時期・依存性・電池・遺残/断線リード・撮像部位・1.5T/3T・SAR/B1+rms・CMR画質までを一括して判定する。
運用上の核心
| 論点 | 現場での判断 | 落とし穴 | 推奨する記録 |
|---|---|---|---|
| MRIカード保有 | カード記載の撮像条件、施設要件、院内プロトコールに合致すればClass I。 | カードがあっても、1.5T/3T、SAR、体位、コイル、lead systemの条件逸脱は不可。 | カード写し、device model、lead model、撮像条件、プログラミング前後値。 |
| カード非保有だが本体MRI対応 | benefitがriskを上回り、専門職体制・同意・監視・登録が満たせるかで判定。 | 「カードがない=不可」と単純化すると、必要なCMR機会を失う。 | カンファ判断、代替検査の限界、患者説明、同意書、登録番号。 |
| mixed-brand | 厳密なMR conditional labelingからは外れるが、改定後はClass IIaとして検討対象。 | 本体とleadが個別にMRI対応でも、組合せが承認条件から外れる点を説明する。 | メーカー組合せ、通常条件から外れる理由、当日の監視体制。 |
| legacy lead | リード機能・閾値が正常、断線/被覆不全なし、遺残・心外膜・コネクターなしならClass IIaの対象。 | 「古いリード」の意味を曖昧にしない。正常機能のdevice checkが必須。 | threshold、sensing、impedance、電池、lead integrity、胸部X線の確認。 |
| 心内膜遺残リード | Class IIb。1.5T、低SAR、専門施設、患者への明確な説明で個別判断。 | 安全性が十分確立したわけではない。CMR以外の選択肢も必ず検討。 | リスク/ベネフィットの議事録、SAR/B1+rms上限、緊急対応準備。 |
3. CIED患者MRI安全性の原理:何を怖がるべきか
CIED患者のMRIリスクは、静磁場B0、傾斜磁場、RF、そしてデバイスの電子回路・リード・患者依存性の相互作用です。リスクはゼロではありませんが、現代のプロトコールでは管理可能な範囲へ圧縮できます。
リスクは4階層に分けると迷いにくい
静磁場による力・トルク、傾斜磁場による誘導電流、RFによるlead-tip heating。現代プロトコールでは、従来条件下で温度上昇や誘導電流は小さく抑えられる報告があるが、特殊リード・遺残リードでは別問題。
power-on reset、非同期/抑制モードへの意図しない変化、ICD治療の再有効化、oversensing、pacing inhibition。
pacemaker dependent、重症心不全、VT storm、鎮静、酸素化不良、抗不整脈薬、電池寿命逼迫。
安全に撮れても、左前胸部ICD/S-ICDのアーチファクトでLGE・perfusionが非診断的になる可能性。
4. 安全性エビデンス:なぜ運用拡大が可能になったのか
歴史的にはCIEDはMRIの禁忌とされましたが、現代デバイス、1.5T中心のプロトコール、前後interrogation、適切なprogramming、連続監視により、大規模研究で重篤な有害事象が極めて少ないことが示されました。
| エビデンス | 対象・規模 | 主な知見 | 実務への意味 |
|---|---|---|---|
| 日本3学会合同ステートメント改訂 | 日本医学放射線学会・日本磁気共鳴医学会・日本不整脈心電学会、2024年改訂。 | 日本で条件付きMRI対応CIED導入後、長期に大きな健康被害が報告されていない背景を踏まえ、カード非保有者の新たな施設要件と推奨クラスを整理。 | 施設基準・同意・監視・登録を前提に、mixed-brandやlegacy leadなどを議論可能にした。 |
| MagnaSafe Registry | 非MR conditional PM/ICDの1.5T MRI。Pacemaker 1000例、ICD 500例。 | プロトコール下で死亡、lead failure、device failureなどの重篤イベントは認められなかったと報告。 | 非胸部MRI中心だが、標準化された前後チェックとprogrammingの価値を示した。 |
| Nazarian et al. | 1509患者、2103件の1.5T MRI。PM/ICDのlegacy systemを含む。 | power-on resetは少数で、臨床的有害転帰は認められず、電池末期例のリスクが重要。 | 電池寿命、依存性、当日体制がリスク層別化の中心であることを裏付ける。 |
| SCMR Expert Consensus 2024 | CMR特化の国際コンセンサス。 | CIED患者は心筋症・不整脈を背景にCMRの恩恵が大きく、CMR用のsequence optimizationとwideband技術を組み込んだワークフローが必要。 | 単なるMRI安全文書ではなく、CMR画質・臨床適応・リスク管理を統合する実装指針として使う。 |
| Perfusion CMR in CIEDs, 2025 | 1.5T、156例、active CIED、stress/rest perfusion。 | PMではartifactが少なく、ICD/CRT-D/S-ICDではsGE系protocolがSSFPよりartifactを減らす。major safety issueなし。 | stress perfusionも、デバイス型に応じてSSFP/GREを選ぶ時代へ。 |
5. 院内運用アルゴリズム:依頼から帰宅まで
CIED-CMRは、当日だけ頑張っても成立しません。紹介時点での適応確認、デバイス情報収集、前日までのリスク分類、当日のprogramming、撮像中監視、撮像後復帰・記録までを1本化します。
当日programmingの基本形
| 患者状態 | 典型的な設定 | 注意点 |
|---|---|---|
| 非依存・自己脈あり | OVO/ODOなど、pacingを行わないMRI modeが基本。 | 過度な非同期pacingは競合やR-on-Tを理論的に生じうる。臨床状況に応じてEPが決定。 |
| pacemaker dependent | VOO/DOOなど非同期pacing mode。 | 外部pacing/defibrillator準備、ACLS、programming可能者の近接配置が必須。 |
| ICD / CRT-D | tachy therapyをOFF。必要に応じてbrady設定をMRI modeへ。 | power-on resetでtherapy再有効化や設定変化が起きうるため、撮像後interrogationは必須。 |
| Rate responseや特殊機能 | 原則OFF。 | センサー誤作動、oversensing、pacing抑制のリスクを避ける。 |
6. CMR撮像プロトコール:安全性と診断能を両立する
CMRでは、通常MRIよりもgeneratorが心臓に近く、左前胸部デバイスのartifactがcine、LGE、perfusion、mappingに直接かかります。したがって「安全に撮る」だけでなく「診断できる画質にする」工夫が必要です。
AField / RF
非MR conditionalやカード非保有系では1.5Tを基本に考える。MR conditionalでも3Tは条件確認とartifact増加に注意。SARは低め、可能ならB1+rmsも意識。
BPulse sequence
bSSFPはSNRが高い一方、off-resonance/bandingに弱い。artifactが出る場合はspoiled GRE/SPGR/FLASH系、短TE、高receiver bandwidth、低flip angleを選ぶ。
CWideband
CIED generatorはkHzオーダーのB0 shiftを生み、標準IR/SR pulseの帯域では反転/飽和が失敗する。LGE、T1 mapping、perfusionではwideband prepを準備する。
sequence別の実装メモ
| 目的 | 通常選択 | CIED-CMRでの調整 | 実務メモ |
|---|---|---|---|
| Localizer | bSSFP / GRE | まずartifactの範囲を把握。左ICD/S-ICDでは心基部~前壁/側壁のsignal voidを確認。 | 最初のlocalizerで非診断的範囲を予測し、以後のplanを変える。 |
| Cine | bSSFP | artifactやbandingが大きければGRE/SPGR/FLASH。短TE、高bandwidth、低flip、必要ならreal-time。 | EF/volume目的なら多少SNRを犠牲にしても安定性を優先。 |
| LGE | IR-GRE / PSIR | wideband IR prepを優先。single-shotやmotion-corrected LGEも検討。 | 標準LGEではscarに見える高信号artifactが出る。PSIRでもprep失敗は救えない。 |
| T1 mapping / ECV | MOLLI / SASHAなど | wideband SR/IR prep。artifact領域の定量値はROIから除外または解釈保留。 | 金属近傍のmapping値は「病変」ではなく物理artifactの可能性。 |
| T2 / edema | T2 mapping / T2w | spin echo系はSAR・時間に注意。artifact領域では解釈制限を明記。 | 炎症・心筋炎・サルコイドではLGE/T2の両者が必要だが、優先順位を事前に決める。 |
| Stress perfusion | bSSFP / GRE first-pass | ICD/CRT-D/S-ICDではsGE/GRE系protocolを準備。vasodilator stressを基本に、AV block・pacing modeに注意。 | perfusionはやり直しが難しい。stress前にtest sliceやrestでartifact範囲を確認。 |
| Flow / Valve | phase contrast / 4D flow | lead artifactは局所的だが、generatorやgating不良が問題。gatingを複数手段で確保。 | CIED患者では不整脈が多く、retrospective binning品質も確認する。 |
7. アーチファクト:generatorが作るB0 shiftをどう抑えるか
CIEDの金属・電子部品は心臓近傍の局所磁場を歪ませ、信号欠損、幾何学的歪み、bSSFP banding、IR/SR prepの失敗を引き起こします。特にICD/CRT-D/S-ICDはgeneratorが大きく、左前胸部から心臓への距離が短いほど影響が強くなります。
artifact低減の優先順位
腕上げ
generator側の腕を挙上すると、心臓とgeneratorの距離が増え、artifactが軽減することがあります。患者の可動域・安全性を確認。
GRE化
bSSFPが破綻する場合はspoiled GREへ。SNR低下は許容し、診断可能性を優先します。
高帯域
receiver bandwidthを高くし、TEを短く、sliceを薄く、voxelを小さくすると歪みを減らせる場合があります。
prep pulse
LGE、perfusion、T1 mappingではwideband IR/SR prepが最も本質的な対策になり得ます。
8. CIED患者にCMRが必要になる臨床シナリオ
CIED患者は、心筋症・不整脈・心不全・虚血性心疾患・サルコイドーシスなど、むしろCMRの価値が高い集団です。問題は「CMRが有用か」ではなく「その患者で安全に、診断可能な画質で、臨床意思決定に足る情報を得られるか」です。
心筋症・心不全
LVEF/RVEF、volume、壁運動、LGE、T1/ECV、T2により、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心アミロイドーシス、心サルコイドーシス、心筋炎、薬剤性心筋障害などを評価します。CIED植込み後でも、原因診断や治療反応評価が必要な場面は多いです。
不整脈・VT ablation planning
LGEは瘢痕、border zone、channel、心内膜/心外膜/壁内基質を可視化し、VT ablationの戦略に直結します。CIED患者こそscar imagingが必要ですが、左ICDのartifactが最大の障害です。
虚血・stress perfusion
exercise ECGはpacingや脚ブロックで読みにくく、stress echoも壁運動評価に制限がありえます。vasodilator stress CMRは有力ですが、ICD/CRT-D/S-ICDではsGE/GRE系protocolやwideband perfusionが重要です。
CRT・治療方針
scar burden、septal scar、viability、dyssynchrony、LV remodelingはCRT反応性やデバイス治療戦略に影響します。MRIの可否が治療選択に直接関わることがあります。
| Clinical question | CMRで得たい答え | CIED-CMRでの注意 |
|---|---|---|
| 非虚血性心筋症の病型診断 | LGE pattern、T1/ECV、T2、RV involvement。 | generator artifactが前壁/側壁LGEを隠す。wideband LGEを優先。 |
| VT ablation前 | scar core/border zone、endo/epi/intramural substrate、冠静脈/心外膜関係。 | VT stormでは検査自体の安全性・監視体制を最大化し、最低限LGEだけでも臨床価値がある。 |
| 虚血評価 | stress perfusion defect、scar/viability、microvascular dysfunction。 | ICD/S-ICDでanterolateral artifactがperfusion defect様に見える。stress前にartifact mapを作る。 |
| サルコイドーシス | patchy LGE、T2、活動性、治療反応。 | FDG-PETと相補的。LGE artifactが病変分布と重なる場合はPETやCTと統合。 |
| 弁膜症・血流 | volume、regurgitant fraction、flow、RV機能。 | leadそのものより、gating不良と不整脈が定量誤差の原因になりやすい。 |
9. 実装チェックリスト:院内でそのまま会議にかける骨子
予約前チェック
当日チェック
院内役割分担
| 職種 | 責任範囲 | 事前に決めるべきこと |
|---|---|---|
| 依頼医 | CMR適応、代替検査の検討、患者説明の出発点。 | 検査で変わる治療方針、緊急度、ガドリニウム適応。 |
| 不整脈専門医/循環器 | デバイスリスク分類、programming方針、依存性評価、異常時対応。 | 誰が当日立ち会うか、どの閾値変化で中止/再評価するか。 |
| 診断放射線医/CMR読影医 | protocol選択、画像品質の担保、非診断時の判断、報告書。 | 最小必須sequence、artifactで諦める基準、代替sequence。 |
| MR診療放射線技師 | 安全確認、SAR/B1+rms管理、sequence調整、監視継続、患者コミュニケーション。 | CIED-CMR preset、wideband/GREの場所、緊急停止手順。 |
| 臨床工学技士/メーカー担当 | programming、前後interrogation、デバイス情報整理。 | プログラマーの配置、MRI室への持ち込み禁止、記録フォーマット。 |
| 看護師/救急対応者 | 静脈路、薬剤、stress test、観察、ACLS補助。 | adenosine/regadenoson/dobutamine時の禁忌と中止基準。 |
“Class I標準レーン”と“Class IIa/IIb高リスクレーン”を分けた予約システムとして運用する。
10. セッションで確認すべき専門的論点
杏林大学、東京女子医科大学、三重大学で、誰が予約前triageを行い、誰が当日立ち会い、どの症例を断っているのか。特にCE/メーカー/不整脈医のリソース設計。
同意書、説明者、カンファ記録、登録、倫理・医療安全部門との関係。mixed-brandとlegacy leadをどのように区別しているか。
wideband LGE/T1/perfusionが使用可能か。左胸部ICD/S-ICDで標準protocolが破綻したときの代替sequenceは何か。
vasodilator選択、AV blockリスク、pacemaker dependentのprogramming、ICD therapy OFF中の監視、perfusion artifactの評価方法。
非診断率、完遂率、前後device parameter変化、患者症状、registry提出、incident/near missの集計をどう管理するか。
参考文献・根拠資料
- 日本医学放射線学会・日本磁気共鳴医学会・日本不整脈心電学会. 心臓植込みデバイス患者のMRI検査に関する運用指針 3学会合同ステートメント改訂. 2024.
- Kim D, Collins JD, White JA, et al. SCMR expert consensus statement for cardiovascular magnetic resonance of patients with a cardiac implantable electronic device. Journal of Cardiovascular Magnetic Resonance. 2024;26:100995.
- Russo RJ, et al. Assessing the Risks Associated with MRI in Patients with a Pacemaker or Defibrillator. New England Journal of Medicine. 2017. MagnaSafe Registry.
- Nazarian S, et al. Safety of Magnetic Resonance Imaging in Patients with Cardiac Devices. New England Journal of Medicine. 2017.
- Vuorinen A-M, et al. Reducing cardiac implantable electronic device-induced artefacts in cardiac magnetic resonance imaging. European Radiology. 2023;33:1229-1242.
- Meier C, et al. First-pass perfusion imaging using cardiovascular magnetic resonance in patients with various cardiac implantable electronic devices. Clinical Research in Cardiology. 2025.