SCMR Japan WG Seminar 2026 / Session I

CMR断面設定
まだ「手動」ですか?

CMRの断面設定は、単なる“撮像前の位置合わせ”ではありません。心臓をスキャナ座標から解剖学的・臨床的座標系へ変換する、検査品質・再現性・施設展開性を左右するコア技術です。

添付画像:CMR断面設定セッション
添付画像より抽出:第Iセッション「CMR断面設定 まだ『手動』ですか?」

セッション構造

座長奥田 茂男 先生(東京医療センター・放)
共催フィリップス・ジャパン / GEヘルスケアファーマ
時間09:45–10:35(discussion 10:30–10:35)
09:45 Advanced CMR planningを使用する意義|山畑 経博 先生 10:00 手動で十分?! ベテラン施設の立場から|福島 啓太 先生 10:15 手動で始めましたが…新規施設の立場から|横谷 領希 先生
1. 断面は“診断の前処理”

2CH/3CH/4CH/SAXの数度のズレが、容積・EF・壁運動・LGE局在・flow planeに波及します。

2. 自動化は“標準化装置”

AI/advanced planningの価値は、単なる時短よりも施設間・検査間の再現性と新人教育にあります。

3. 手動知識は必須

自動化後も、解剖学的妥当性・confidence・edge caseを見抜く専門家QCが最終安全網です。

01

なぜ「断面設定」がCMRのボトルネックなのか

CMRは心臓を任意方向に切れることが強みですが、裏返すと、正しい心臓軸を毎回作らなければならないモダリティです。CTのように3Dボリュームを撮って後からMPRすればよい場面ばかりではなく、cine、perfusion、mapping、LGE、phase contrast flowの多くは、撮像時点で“どの面を切るか”が画質・診断・定量に直結します。

画質

呼吸停止と時間

断面設定のために複数localizerを繰り返すほど、患者疲労・呼吸位置変動・検査室のidle timeが増えます。

定量

LV/RV volume

SAXの傾き・基部/心尖部coverage・slice gapが、EDV/ESV/EF/massに影響します。特に基部は僧帽弁輪の移動で判定が難しい領域です。

標準化

施設展開性

ベテランの頭の中にある“暗黙知”を、機械的な幾何・QCルール・教育手順へ落とし込むことが、新規施設立ち上げの鍵です。

結論:Advanced CMR planningの本質は「クリック数削減」だけではなく、手動熟練者の幾何判断をワークフローへ埋め込むことです。
02

原理:CMR断面は「座標変換」である

MR装置の座標は、患者の左右・前後・頭尾方向に近いスキャナ座標です。一方、CMRで必要なのは、左室長軸、右室流出路、弁輪、心尖部、心室中隔、冠状静脈洞などを基準にした心臓固有の座標系です。

2D断面の数学的表現

Plane(u,v) = P₀ + u·e₁ + v·e₂
normal n = e₁ × e₂

P₀: 断面中心、e₁/e₂: 面内方向、n: 面法線。SAXでは n が左室長軸に近く、flowでは n が血管中心線に近いほど、定量と再現性が安定します。

ランドマーク

典型的には、LV apex、mitral valve center/annulus、aortic valve/LVOT、tricuspid valve、RV insertion、septum/free wallなどから、2CH・3CH・4CH・SAX・RVOT・flow planeを構成します。

X/LRZ/HFY/AP MV Apex SAX stack LAX Scanner coordinate → Cardiac coordinate
2CH

LV apexとmitral valveを通り、右室をなるべく含めない。前壁/下壁評価に有用。

4CH

LV/RV、LA/RA、僧帽弁・三尖弁が見える。RVや弁輪位置の評価に重要。

3CH/LVOT

LV apex、MV、aortic valve/LVOTを通る。大動脈弁・僧帽弁・中隔基部に強い。

SAX

LV長軸に直交し、基部から心尖部まで連続coverage。容積・mass・壁運動の主戦場。

03

手動planning:ベテランが無意識に行っている判断

手動planningは「遅い旧式」ではなく、解剖と臨床目的に合わせて断面を補正できる最強の適応能力を持ちます。問題は、その判断が暗黙知化しやすく、施設内・施設間で再現しにくいことです。

1. 3-plane localizer胸郭・心臓位置
2. axial / transaxialMV, RV, LVOTの粗把握
3. pseudo LAX2CH/4CHの仮設定
4. true LAX + SAX解剖学的軸へ修正
5. cine/mapping/LGE/flow診断系列へ展開

ベテランの強み

  • 拡大心・右室負荷・心尖部偏位・術後心・先天性心疾患など、標準解剖から外れた症例に強い。
  • 検査目的に応じて、SAX優先、RVOT優先、flow plane優先、valve優先などを切り替えられる。
  • localizerの質が悪いとき、経験で再撮像・角度修正・体位/呼吸指示を判断できる。

手動の弱点

  • クリック数・待ち時間・繰り返しlocalizerによりidle timeが増えやすい。
  • 新人教育では「どこを見て何を合わせるか」が言語化されないと再現しにくい。
  • フォローアップで微妙に断面が変わると、EF・容積・LGE局在・strain等の比較に影響する。
04

Advanced / AI CMR planningの原理

自動planningは、撮像前に低分解能のsurvey/localizerから心臓ランドマークを推定し、そのランドマークを基準に標準断面を生成します。AIの実装は各社で異なりますが、概念的には以下のパイプラインです。

3D survey胸郭・心臓位置
検出心臓bbox
ランドマークMV / Apex / AV
座標系生成LAX / SAX / LVOT
QC & 展開cine / LGE / flow
2CH
3CH
4CH
SAX
RVOT
Flow

モバイル表示ではパイプラインを縦方向に展開しています。

価値

再現性

同じ患者のフォローアップで、同じルールの断面を再現しやすい。多施設研究でもprotocol driftを抑える方向に働きます。

価値

教育

新人が断面を“見て学ぶ”だけでなく、AIが出した断面をQC checklistで評価する形式に変えられます。

注意

責任の所在

AI出力は診断系列の入口です。confidenceが高くても、臨床目的に合わなければ人間が修正する必要があります。

05

専門家QC:自動化後も残る“最後の5秒”

Advanced planningを導入しても、最終的には技師・医師が「この断面で診断できるか」を判断します。自動化の有無にかかわらず、以下の5-plane gateを最低限チェックします。

クリック式 QC score

0/5未評価

断面角度の概念シミュレータ

概念図です。角度が増えるほど、基部/心尖部coverage、壁厚、容積、flow planeの過小評価リスクが上がることを示します。


低リスク
断面合わせるものズレた場合の臨床影響QCの観察点
2CHLV apex + mitral valve center前壁/下壁の壁運動評価、area-length、LGE対応が不安定LA/LVが長く見え、RVを過剰に含まない
4CHLV/RV apex、MV/TV、心房心室RVサイズ、弁輪運動、右室機能評価、CHD評価に影響中隔が過度に斜めでない、両AV弁が同時に見える
3CHLVOT + aortic valve + mitral valve + apex大動脈弁、僧帽弁、基部中隔、HCM/SAM評価が不安定LVOTが切れていない、AV開放が評価できる
SAXLV長軸に直交、base-to-apex coverageLV/RV EDV/ESV/EF/mass、局所壁運動、mapping/LGEセグメント対応に影響基部の弁輪・流出路・心尖部coverageをcineで確認
Flow plane血管中心線に直交、弁/狭窄/vena contractaの位置peak velocityやregurgitant fractionの過小/過大評価through-plane方向、aliasing、jetの偏心、測定位置
06

臨床:断面設定のズレがどこに効くか

1. 心筋症

HCMでは最大壁厚を壁に垂直に測ること、DCMでは拡大LV/RVの完全coverage、ARVCではRV free wall/RVOTの見え方が重要です。

2. 虚血・LGE

SAX/LAXの対応が不良だと、梗塞範囲、transmurality、微小循環障害、perfusion defectの局在説明がブレます。

3. 弁膜症・flow

flow planeが血流方向に直交しないと、狭窄速度や逆流量が不安定になります。弁輪・大血管の中心線理解が必須です。

4. 右心系

RVは幾何が複雑で、SAXだけではtricuspid planeやRVOT評価が不十分なことがあります。axial stackや4CH/RVOTの併用が有用です。

5. mapping / ECV

native T1/T2/ECVでは、同一短軸レベルでの比較とpartial volume回避が重要です。フォローアップで断面が違うと微小変化を誤解します。

6. 新規施設

検査を開始した施設では、まず“診断できる標準断面”を高頻度に再現することが第一目標。advanced planningは立ち上げ時の教育補助になります。

臨床での判断基準

臨床シナリオ優先する断面失敗すると困ること自動化への期待
ルーチン心機能SAX + 2/3/4CHEDV/ESV/EF/massの再現性低下標準化、時短、フォローアップ比較
HCM / LVOT3CH, SAX basal-mid, LAX追加最大壁厚・SAM・LVOT狭窄評価の不安定化初期断面生成 + 人間の目的別微調整
RV負荷 / PH / ARVC4CH, SAX, axial cine, RVOTRV volume・局所壁運動・RVOT評価の不足追加断面の漏れ防止、撮像手順の標準化
弁膜症 / flowvalve plane, vessel centerline orthogonal plane速度/逆流量の定量誤差中心線・弁位置の候補提示。ただし最終修正は必須
小児/CHD/術後疾患別カスタム断面標準成人断面では病態説明不能現時点では人間主導の上級planningが主体
07

エビデンスと製品情報の読み方

このテーマでは、メーカー発表・単施設研究・健常ボランティア研究・臨床導入研究が混在します。重要なのは「何分短縮したか」だけでなく、どの患者群で、何をエンドポイントに、誰がQCしたかです。

SCMR標準化

標準protocolとpost-processing

SCMRはCMR protocolの標準化・post-processing標準化を重視しています。自動化はこの標準化を支える手段ですが、解析結果や自動輪郭はreaderが妥当性確認する必要があります。

Philips公開情報

SmartHeart / Advanced planning

公開情報では、AIにより14の基本・advanced viewを30秒未満で生成し、手技のばらつきを減らすことがうたわれています。メーカー値は、施設の実運用で再検証する前提で読むべきです。

2026 Eur Radiol

自動断面 vs 手動の再現性

健常者52名で1.5T/3Tを含めた比較が行われ、自動plane positioningは高品質な断面と容積パラメータの高い再現性を示したと報告されています。対象は主に健常者であり、複雑疾患への外挿には注意が必要です。

2025 Eur Radiol

臨床workflow研究

非stress CMR 82例の単施設前向き評価では、自動化群の手順エラーが少なく、free-breathing protocolで検査時間短縮が報告されています。一方、breath-hold protocolでは総時間差が小さい点も重要です。

評価指標:導入施設で必ず取るべきKPI

Planning time

localizer開始から最初の診断cine開始まで

Idle time

装置が撮っていない時間。自動化効果が最も出やすい

Override rate

AI出力を何%修正したか。症例別に記録

Repeat rate

断面不良での再撮像率。新人/ベテラン別も有用

Diagnostic adequacy

読影医が診断可能と判定した割合

Inter-study CV

フォローアップでのEDV/EF等のばらつき

Patient burden

息止め回数、検査中断、患者満足度

Education curve

新人が独力で合格断面を出すまでの症例数

08

演題別の専門的な読み解き

09:45–10:00
山畑 経博 先生

Advanced CMR planningを使用する意義

  • 時短だけでなく、断面標準化・新人教育・フォローアップ再現性をどう示すか。
  • どのviewまで自動生成し、どのviewは手動修正前提か。
  • 失敗例とoverride基準を提示できると臨床価値が明確。
10:00–10:15
福島 啓太 先生

手動で十分?! ベテラン施設の立場から

  • 熟練者の手動は、複雑症例・目的別断面・救済判断で依然強い。
  • “手動で十分”の条件は、経験者常駐・教育体系・検査件数・QC文化の有無。
  • 自動化はベテランの代替ではなく、ベテラン知を施設標準へ変換する道具。
10:15–10:30
横谷 領希 先生

手動で始めましたが…新規施設の立場から

  • 新規施設では、最初に“迷わず標準断面を出せる”ことが検査継続の条件。
  • 自動化は、低頻度検査・人事異動・教育負担に対するリスクヘッジ。
  • ただし、AIが失敗した時に手動へ戻れるminimum skill setが必須。
このセッションの本当の対立軸は「手動 vs 自動」ではなく、個人熟練に依存するCMRから、施設として再現できるCMRへ移行できるかです。
09

失敗モード:AIでも手動でも落とし穴は同じ

高度拡大心

心尖部・基部の推定が外れやすく、SAX coverageが不足する。

右心負荷

RVが大きい症例では4CH/SAXの目的がLV中心からRV中心へ変わる。

先天性/術後

標準成人心のランドマーク定義が崩れる。疾患別断面が必要。

不整脈

localizer/cineの時間相・画質が不安定で、ランドマーク推定が揺れる。

息止め不良

surveyと診断系列の呼吸位置がズレ、断面の見かけが変わる。

デバイス/metal

アーチファクトでAI検出・手動視認ともに難しくなる。

弁膜症/偏心jet

flow planeは標準断面だけでは不十分。jet/centerlineを見て修正。

HCM apical/basal

最大壁厚は短軸だけでなく長軸も確認。斜め切りで過小/過大評価。

解析ソフトとの不整合

撮像断面と解析ルールが違うと、AI撮像が良くても数値がぶれる。

Override基準の例

Green:標準症例で2CH/3CH/4CH/SAXがQCを満たす → そのまま進行。
Yellow:1断面だけ軽微にズレる、または臨床目的が特殊 → 該当断面のみ手動補正。
Red:心臓位置・apex/MV/AV推定が破綻、CHD/術後/高度artifact → 自動結果を採用せず手動planningへ切替。
10

施設導入プラン:Advanced planningを“実用”へ落とす

Phase 0:導入前ベースライン

  1. 標準protocolのview listと命名規則を固定。
  2. 手動planningのplanning time、repeat rate、技師別ばらつきを20–30例で記録。
  3. 読影医が“診断可能/軽度不十分/不十分”の3段階評価を行う。

Phase 1:並走運用

  1. AI出力を採用/補正/棄却の3分類で記録。
  2. 症例種別(routine, HCM, RV, valve, CHD, device)ごとにoverride理由を蓄積。
  3. ベテランが新人へ、AI断面を教材としてレビューする。

Phase 2:標準運用

  1. routineはAI first、complexはmanual firstなどの分岐を定義。
  2. 撮像室内の5-plane QC checklistを標準作業に組み込む。
  3. 月1回、失敗例カンファレンスで断面エラーを共有。

Phase 3:多施設展開

  1. protocol、断面例、NG例、override基準をPDF/動画/HTML化。
  2. 新規施設では“最初の10例レビュー”を必須化。
  3. 研究では断面QCの合格基準を事前登録する。
11

discussionで刺さる質問集

Advanced planning側への質問

  • 標準14 view等を生成する場合、臨床で実際に使用するviewと、確認だけで終わるviewの内訳は?
  • AIのconfidenceや失敗アラートは表示されるか。低confidence時の推奨workflowは?
  • HCM、RV拡大、術後、CHD、デバイス症例ではどの程度overrideが必要か?
  • 時短効果は総検査時間、idle time、planning time、息止め回数のどれに最も出るか?
  • 過去検査との断面再現、同一患者follow-upに使える機能はあるか?

手動/新規施設側への質問

  • ベテラン施設で“手動で十分”と判断できる最低条件は何か?技師教育の到達基準は?
  • 新人が最初につまずく断面は2CH/4CH/3CH/SAXのどれか?なぜか?
  • AI断面を教材化することで、教育時間や指導者負担は下がるか?
  • 断面不良による再撮像・読影困難例は、どの程度発生しているか?記録しているか?
  • 施設標準として残すべき“手動minimum skill”は何か?
最も実践的な最終質問:「明日から新規施設がCMRを始めるとして、AIに任せてよい部分と、絶対に人が見なければならない部分を3つずつ挙げると何ですか?」
12

参考情報・注記

本HTMLは、添付画像のセッション情報を起点に、SCMR標準化文書、公開製品情報、近年の自動CMR planning研究を統合した教育用解説です。特定製品の性能保証ではなく、導入時は各施設の装置・バージョン・protocol・症例構成で検証してください。

  1. SCMR. Standardized cardiovascular magnetic resonance imaging (CMR) protocols: 2020 update. SCMR page
  2. Schulz-Menger J, et al. Standardized image interpretation and post-processing in cardiovascular magnetic resonance – 2020 update. Journal of CMR / Springer
  3. Hundley WG, et al. SCMR guidelines for reporting cardiovascular magnetic resonance examinations. JCMR / ScienceDirect
  4. Philips. Cardiac MRI imaging / SmartHeart public product information. Philips healthcare
  5. Deyerberg KK, et al. Reproducibility of cardiac volumetric parameters derived from fully automatically prescribed image planes: a direct comparison to manual planning at 1.5-T and 3-T MRI. Eur Radiol. 2026. Springer
  6. Glessgen C, et al. Automated vs manual cardiac MRI planning: a single-center prospective evaluation of reliability and scan times. Eur Radiol. 2025. PubMed